音に関する基本的な想像力 

音に関する基本的な想像力を身につけるのは、
ことのほかむずかしい。
私自身だってそうだ。
放送大学の「音楽理論の基礎」とかいうのを見たが、
あまりの高度さに「これのどこが基礎なんだ」と驚愕するし、
他のミュージシャンに、
「こんなメロディーはトランペットではありえない!」
と詰め寄られても、どこがどうありえないのか、
いくら考えても、わからない。
(出しづらい音程があるとかなら想像可能だが、「トランペットだからそこのミは8分音符じゃなくて16分音符でしかありえないでしょうが」、というような話だと、もう皆目解らないし、じつはそもそもトランペットの音を出している意識すらない。私にとっては“電子音”だ。)

わからないはずのないことがわからない、ということが、
私にだって、ある。

------------------------

さまざまなクリエーターが仕事をする場所で、
1時間おきにメロディーを鳴らす柱時計が導入された。
最初、「大変だ!音以外のクリエーターはこんなにも音に無意識なのか!」って、
いくつもの柱時計を一つ一つ音をオフにして回ったのだが、
「時間おきにメロディーが鳴れば時間にメリハリがつくって、みんなで決めて買ったんです」
と告げられた。
「この場所にメロディーが鳴り響くということは、音の人間がメロディー考えてるときに別のメロディーが鳴るということで、それは暗算してる最中に耳元で九九を読み上げられるようなもので」
って懸命に説明したが、不思議そうな顔をされるばかりで、何がいけないのかはわかってもらえなかった。

------------------------

野外録音の難しさ。
ためしに自動車が行きかう音を10分間録ろうとしてみるとわかる。
だいたい10分以内に、誰かが「録音ですか?」と声をかけてくる。
「録音ですか?」と声をかけるのだから、かけた当人は録音かもしれないと思ってるはずだ。
「録音ですか?」と声をかけたら、「録音ですか?」という声が録音されてしまうので、
その録音は、台無しになる。
そんなあたりまえのことが、「録音ですか?」と声をかけてる本人が、わからない。
旅先で何か録ろうとしても、常に付きまとう。
うちに戻って聴き返してみても、
「録音ですか?」
「録音してるみたいだから静かにしなくちゃ静かにしなくちゃ静かにしなくちゃいけないのっ」
などという声が入っていて、9割以上は、使えない。

------------------------

「こんどアルバム作ったんです」
「わぁすごいじゃない聴きたい聴きたいこんどダビングさせて!」
という、パフォーマー。
「ええとね、それさ、チラシとか渡してさ、こんど公演やるんです、って言ったらさ、
すごいじゃない観たい観たい招待券ちょうだい、って言ってるのと、同じだよ?」
と説明したけれど、何を言われているのか、全く理解できないようだった。
実際に自主公演を打つアーティストでも、わからない。
どうすれば解らずにいられるのかわからないけれど、とにかく、わからない。

------------------------

ネット上に私のアルバムをジャケットつきでまるまるダウンロード可能にしている、ロシアのサイトをみつけた。
堂々と私の名前、アルバム名、ジャケットの画像も使って、圧縮ファイルで無料配布してる。
無視を決め込むべきかとかなり悩んだが、ちょっと酷すぎるので、英語で抗議のメール出した。
帰ってきた英語のメールには、
「貧しい人々にあなたの素晴らしい音楽を無料で分け与える私の尊い行為をなぜあなたはやめろと言うのか」
といった意味の言葉が書かれていた。
数回のやり取りで、“海賊データ”は削除してくれたが、
長文の嫌味らしきメールをいただいた。

------------------------

某海外SNSで、
「すべての音楽は無料であるべきだ。そのことはキミだって判っているだろう?」
と英語で説教してきたメキシコの若者を、ブロックした。

------------------------

わからないはずのないことが、わからない。
わからないはずのないことがわからないのだから、
わかってもらおうと努力するのは、無駄なのかもしれない。

坂本龍一氏は、自分達のツアーを、
ネットで無料で生中継している。
中継が終わると、ツイッターなどで、
「投げ銭よろしく」とかつぶやいたりしている。
そしてそのコンサートの模様が数日後、iTunesで有料配信される。
いわば時間差ドネーション(寄付)ウェア。
中継は低音質。いい音で聴きたいひとはもちろん、
中継で満足した人も「投げ銭」のつもりで買ってくれ、というやり方。

伊集院光という人は、
ご自分がやりたい企画を実現するために、
ご自身企画の低予算番組をDVDで売ったり、
ご自身の本を盛んに宣伝したりなさっている。
(伊集院氏の本を誰かが勝手に電子書籍にしてWebで配信したら、
伊集院氏はさぞかし怒ることだろう。ちょっと想像すればわかることだ。)

わからないはずのないことがわからないのだから、
わかってもらう努力は、無駄かもしれない。
だから、頭のいい人は、いろんな模索をしている。

------------------------

私はそんなに頭のいい人間ではないし、
器用に大量にいろんなことをこなせる人間でもない。
それが、つらい。

古文書に勘違いが 

禅師から興味深いお話を伺かがった。

ここではその古文書の題名を伏せるが、
禅を志す人間にはそれなりに知れている、
ある古文書があるそうだ。

わが禅師は、
その古文書に書かれている、とある部分とそっくり同じ体験をしたそうである。
それはある種の神秘体験ともいえそうな体験なのだが、
鍼灸師でもある禅師は、その体験をしたときに、

「ああ、これ、根を詰めて坐っておきた、脳のうっ血だ。」

と思われたのだそうだ。

眉間の奥の辺りで華々しく火花が散り、
その光が鼻のほうに降りてくる。
その後数日間、しばらく幻を見るようになると。

時期的には、禅師が脳梗塞を患われた後で、
なおかつ糖尿病による眼底出血を起こされる前の時期である。

「いやぁ。偉い人が書いた古い有名な書物でも、
勘違いってのはあるんだねぇ。
なんたって当時の時代が時代だからねぇ。
当時は脳のうっ血も脳梗塞も眼底出血もわかんなかったろうしなぁ。」

というような意味のことを仰せであった。

大切に後世に伝えられてきた古文書であっても、
その古文書内の個別の内容一つ一つに関しても、
玉石混交には変わりないのか。
なるほど。

後世に残してきた人々の行いの尊さを削ぐものでは決してないものの、
古ければ信頼性が高いわけではない。
そうかといって、
新しければ正しいってわけでもない。
あたりまえだが、そういうことなのだろう。

Amazon MP3にて販売開始 

Amazon MP3にて、
舟沢作品の販売が開始されました。
追記/補足を読む

Dark Energyに Glide増設 

Doepfer の Dark Energy について、
詳しめに文章を書こうと思ったのですが、
まだまだ暗中模索なので、
Glide増設の話と、Volumeの話だけを書きます。
------------------------
追記/補足を読む

終了:点滅ソロ舞踏公演 『夜踊ル』 

舞踏公演「夜踊ル」は、終了いたしました。
ご来場の皆様、ありがとうございました。
追記/補足を読む