椋鳥の音塊 

夕暮れ時になると、駅前にムクドリが来る。大量に。
街路樹をねぐらにするのだ。
あまりにも大量にくるので、
以前は街路樹をネットで覆ったり、
枝を切り落としたりしていたが、
最近では、それをやりすぎると、彼らが住宅街に行ってしまって、
住宅街で安眠被害が出たり、
あるいはかれらが住宅街に行くことをもあきらめてしまって、
駅前の道路の電柱に列をなして夜を過ごすようになってしまい、
却って道路に糞が落ちるようなことも起こることがわかってきた。

そんなわけで、街路樹の中で、ある程度糞が落ちたり、彼らが騒いだりしてもいいような、
そういう樹を選び出して、そこだけを防鳥ネットをかぶせずにおく、
そういうやり方が試みられていると聞いている。

タクシー/バス乗り場の、ロータリーの、一本の大きな街路樹に、
空からなだれ落ちるようにムクドリたちが舞い降りてくる。
葉っぱの奥は、もうムクドリで一杯になっているはずなのに、
まだまだ舞い降りてくる。どこまでも降りてくる。

ムクドリは、ギャァギャァと鳴く。
一本の樹木の奥で、数千羽が一斉に鳴くのだ。
それは一本の樹木が発する、巨大な音塊になる。

そんな猛然たる音塊であっても、
人と車と電車の行きかう駅前では、耳を澄まさないとうまく聴くことはできない。
人通りの中、樹木に向かって立ち止まり、手を両耳たぶに当てて集音し、
彼ら数千羽の絶叫の塊に耳をそばだてる。

静かな場所で、木々のざわめきを聴く時のような、豊穣な経験。

問題は、木々のざわめきと違い、彼らは温血動物であって、
情動から鳴いているに違いないということ。
私には豊穣な音塊に聴こえてしまっているけれど、
それで、合っているのだろうか。

彼らは、秋の夕暮れに、一斉に、何を叫んでいるのだろうか。

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