中房総という穴場 

「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」というのに行ってきました。
レポートするほど、詳細には見回っていません。
なので、以下は、レポートでもレビューでも、ありません。

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気づいたのは、中房総―千葉県中央北部―は、
東京近縁に住む芸術家・芸術愛好者にとって、
なかなかの穴場であるようだ、ということです。

今回、舟沢は「いちはらアートミックス」の一環で催される、
内田未来楽校を会場とする瀧沢潔氏のインスタレーション、
そしてそのインスタレーション会場で行われる、
櫻井郁也氏のダンス公演を観に行きました。

まず、調べてみて「あれ?」と思ったのは、
舟沢宅(千葉県北西部、東京湾寄り)からだと、
櫻井郁也氏が重点的に活動している劇場、
東京中野富士見町「planB」に行くよりも、
むしろ近いということです。

東京の芸術家の多くが、
山手線の西側に居住していて、
小劇場やライブハウスなども、
山手線の西側に密集していますが、
舟沢からすると、山手線の西側の会場に行くのも、
千葉県の小湊鐵道で芸術を観に行くのも、
交通の便はほとんど同じ、ということです。

そして、思いがけず、環境が非常にいい。

まず、会場の「内田未来楽校」という場所が、非常に良い。
1928(昭和3)年に建設され、
廃校になっている小学校を保存している、とのことで、
床、窓、壁、さらには、もう何十年も嗅いでいなかった、
古い古い木造建築のにおいなど、
もはや「廃墟探訪」に近いような、
圧倒的な風合いを持っています。
それでいて、トイレなどもしっかりしていますし、
地域興しに併設されている休憩ルーム兼物販所のようなところも、
全く嫌みがありません。

今回は各方面が協賛した芸術祭だからでしょうか、
念入りに「暗くなければならないところ」は暗転できるように
窓に目張りがしてあり、充分な暗闇を形成することができていました。
この充分な空間に、瀧沢潔という方のインスタレーションが
光っています。
これも、「え?こんな空間、都内の美術館じゃつくれないよ。」
というような空間になっており、
この建物が非常に貴重な資源となって、
通常の美術館-ホワイトキューブ-では全く不可能な空間が出現しています。

この建物の裏手が崖のようになっていて、上に竹藪が広がっています。
この竹藪が、風が吹くと、非常にいい音を出すのです。

竹藪なんか都内にでもいくらでもある。
廃墟を改造した劇場だって、都内にもある。
そう思われる方もおられるでしょう。
行ってみるとわかります。
静かなのです。

交通の便が非常にいいのにもかかわらず、
人通りも車通りも少なく、非常に、静かなのです。
校舎の中にいても、竹藪の竹のきしみまで聞こえてきます。

周囲のノイズの水位が低い。
それでいて、遮蔽された密室でもない。
これは、都心では全く不可能な環境だと思いました。

その竹藪の前から、櫻井郁也氏のダンスが始まり、
やがて校舎内に移動して踊り、
最終的に、瀧沢潔氏のインスタレーションの中で、
ダンス公演が終わりました。
観客はダンサーの移動に合わせて、移動して観る手法でした。

こういう、半ば野外の公演になると、
場が“荒れる”ことがよくありますが、
そういうことも、殆どありませんでした。
地元の方々も、公演中は静かにしなければならないとか、
フラッシュ撮影は禁止とか、携帯・スマホの電源は切るとか、
そういうことをきちんと把握なさっていました。

踊りの間、音響(あとで見て驚いたのですが非常に小さなスピーカーでした)、竹林の風のざわめき、そして会場のあちこちに設置されたメトロノームが、
絶妙のバランスで音を発していました。
これも、都心ではまず無理なバランスだと思いました。

普段、櫻井郁也氏の公演を観に行く時と殆ど同じ移動時間で会場に行き、
都心では絶対に味わえない空間の中で、
都心では絶対に味わえない音を聞き、
その中で存分に踊る櫻井郁也氏を観て、
なんだか、非常な「豊かさ」を感じたのでした。

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過日、がらにもなく、「里山資本主義」という経済関係の本を読みました。
経済音痴の舟沢にもよくわかる、非常に読みやすい本でしたが、
では翻って自分が「都心から離れた豊かさ」とどう向き合うのか、
考えても解りませんでした。(今でも、実践としては解らないままです)
が、「より長期的に、より小規模に、より天然資源に近い場所で」という「里山資本主義」の、ほんの一端ですが、舟沢も感じ取れたように思ったのです。
「田舎」は、かつてのような、頑迷・粗暴な場所でも無神経な場所でもなくなりつつある。
そこに「文化」の居場所も、少しずつできはじめている。

もちろん、「田舎」といっても「都会」より遙かに多様なのは必定ですから、
このような一括りには無理があるのは解ってはいますが、

「ああ、こんな近場にこんな豊かな体験ができる場所があるのか」

と、すっかり感心してしまったので、ここに記した次第です。

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」は、
5/11までやっているそうです。サイトはこちら
(櫻井郁也氏の公演「記憶の海をわたることから」は終了しています。)
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この芸術祭のサイト、ちょっと見づらいですけれど、
行ってみると駅前に案内所がありますし、
あちこちに道案内の旗や看板があり、
道に迷わないように工夫されています。

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