スピーカー衰退奮闘記(1) 

テクノロジーの進化をどう生きるかよりも切実なのは、
テクノロジーの退化をどう生きるかである。

デジタル技術の飛躍的な進化に伴い、
コンシューマーオーディオの退化、
とりわけスピーカーの退化が深刻であることは、
音好きの皆様は存じのことと思う。

どこまでも低価格になり、どこまでも音が悪くなっていく。

別に、そういうものでまじめに音楽鑑賞しようとは思わない。
ちょっと鳴らす程度の用途なら、
今やプロ用・アマチュア用の境界がすっかり曖昧になった、
DTM関連のスピーカーを使い回せばいいだけだ。
まるっきりコンシューマー用のものを使用することは、もう、滅多にない。

その“滅多にない”使用例にもかかわらず、
意外と頻繁かつ非常に重要な使用例というものがあって、
私の場合それは、
「寝る前に非常に小さな音量で何かかけて眠りに入る」
という、大切な生活習慣である。

自宅の場合、¥12800のCDラジカセを20年使って、
数年前にCDとBluetoothが鳴らせる「パーソナルオーディオシステム」
とかいう呼称のものに買い換えた。
まあ「小さい音でなんとなく鳴ってればいい」という用途なので、不満はない。

問題は、「出先」というか、「宿泊先」。
私には毎週数日間泊まり込みで働く際に、
決まって眠るベッドがあって、
その枕元で、どうしても、小さい音で、音楽を鳴らしながら眠りたい。
かつてはポータブルCDプレーヤーを使っていたが、
スマホを使うようになってからはスマホの音を再生したい。
音質に贅沢は言わないが、
スマホのスピーカーよりはいい音であってほしい。
なので別途スピーカーを使用したい。
ただ、そのベッドの枕元は非常に狭く、スピーカーを置くとしたら、
大きさは縦横がスマホ程度、奥行きは長くても人差し指ぐらい。
つまりギターエフェクターぐらいの大きさのものを縦に置くぐらいだ。
それ以上の大きさのものは、物理的に置けない。

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記憶に残っている最古のスピーカーは、
確か2000円台のものだったと思う。
(それ以前のものもあったが、もはや思い出せない。)
いわゆるアクティブスピーカー。
コンシューマー用語だとPCスピーカーという呼称になるのか。
ステレオミニプラグでポータブルCDプレーヤーや
スマホのイヤホンアウトからの信号を受け付ける。

音質そのものは全く申し分ない。スマホのスピーカーよりずっといい。
が、非常にしばしば、断続的に、
「み!みみ!みぃー!みー!」
という甲高いノイズが出るのだ。
これは絶対音感で言う「ミ」ではなく、非常に独特な音色で、
「音程の全く変化しないミンミンゼミみたいな音」
が断続的に相当な音量で鳴り続けるのだ。

家電量販店で買ったのだが、
これはどういうことなのか、とその品物をネット通販サイトで調べてみると、
「音がいい」と星を5つ付けている人と、
「なんか変な高周波のノイズが鳴ってる」と星を1つ付けている人とがいる。
評価だけを読むと「高周波ノイズ」と言っている人が神経質みたいに
読めてしまうが、これはどうやら個体によって、
「みー!」とノイズが出るものがあるということらしい。
ということは、これを宿泊地から持ち帰り、
保証書を探し出して家電量販店に持ち込み、あるいは郵送し、
交換してもらったとしても、
交換されたものも「みー!」と言ってる可能性がある、ということだ。

そこまで手間ひまをかけたくもない。
私は、軽い気持ちで、寝る前に、小音量でなんとなく音楽をかけていたい。
そう望んでいるだけなのだ。

しばらく使ったら音が落ち着くのではないかと思って、
数ヶ月使ったが、「みー!」という音は治らないので、
修理交換ではなく、新たに買い換えることにした。

音質はほぼ問わないから枕元で小音量で音楽を鳴らしたい、という用途で、
今度は通販サイトを物色すると、
その通販サイトがプライベートブランドらしきものを立ち上げており、
やはりステレオミニプラグで入力するアクティブスピーカーで、
「ベストセラー」と冠してあるものがある。
値段も¥999と安い。購入して、宿泊地まで持って行く。
音も「枕元でなんとなく鳴ってればいい」という価値観なら全く申し分ない。
なんだ。これで充分じゃないか。
――と、半年ほど快適に過ごしていたら、そのスピーカーから、
「みー!」
という音が轟き始めた。

全く別のメーカーのもので同じノイズということは、
今どき、非常に安価なアンプ回路というのは、
なんだかよくわからないが「みー!」というノイズが出てしまうもののようだ。
音質が悪いのは価格で覚悟の上。「サー」というノイズも価格的に許す。
だが「みー!」と鳴っていたら、
それはスピーカーの用をなさない。

だが、999円で半年使えた。
同じのを買えば999円でもう半年持つだろう。安いものだ、
と再び購入しようとしたら、ない。
半年で生産が終了したらしい。
じゃあ同じプライベートブランドで同じ価格帯のものが新商品で出てるはずだ、
と探したが、ない。
どうやら安物のスピーカーの世界は、非常に頻繁にモデルチェンジしたり、
ブランドそのものが消失したりするものらしい。

またスピーカー探しの旅に出るのか。

なんだかばかばかしくなってきた。
私は、軽い気持ちで、寝る前に、小音量でなんとなく音楽をかけていたい、
そう望んでいるだけなのだ。
探す手間ひま、宿泊地まで持ち運ぶ手間ひま、
想像だにしない「みー!」などというノイズを聴きながら眠らなければならない日々、
何もかもばかばかしい。

音質にこだわらないなどと思っているから却ってだめなのではないか。
高価なものを買えば妙なノイズもないのではないか。

そう思って、価格にこだわらない決心をして、
「大きさの割に非常な高音質」を謳う小型スピーカーを購入した。
価格は¥25800。
いくらなんでもここまで高価なら問題なかろう。
ステレオミニプラグでライン入力も受け付けるし、
Bluetoothで鳴らすこともできる。

電源を入れてみる。
爆音で英語音声が轟く。
操作法が音声ガイドである。
取説のような紙を見ると、
取説をダウンロードできるURLが書いてある。
PDFの取説を見ながら、音声ガイドを日本語にし、
一通り初期設定を終えたら音声ガイドをオフにする。
取説を見ると、この音声ガイドは各種言語を取りそろえてはいるが、
音声ガイド自体の音量を下げることはできないらしい。
夜中なら近所から苦情が来そうな音量である。

まず、ライン入力に音を入れてみる。
烈しく歪んでいる。
なんとなく歪みっぽいのではなく、
過大入力の歪みの音。ギターアンプのゲインを上げたような音。
取説の「よくある質問」を読むと、
「ライン入力の音が歪んでいる場合、出力が大きすぎることが考えられます」
などと書いてある。
ヘッドフォンアウトのボリュームを下げてみる。
ミキサーからのアウトにして出力ゲインを下げてみる。
極限まで出力側の音量を下げたとき、
ギターアンプで言う「クランチ」ぐらいの歪みにまで歪みが減る。

有り体に言えば、この会社の「よくある質問」の回答は、
「これはBluetoothで使うことを前提に作ったので、
ライン入力の回路はうんと原価を下げました。手を抜きました。
もはや音の体をなしていませんが、ここはひとつ、
当社のせいではないと言い張らせていただきます」
という風にしか読めない。

腹立たしく思いながらBluetoothをつなげる。
こちらは全く歪まない。
だが、「小さいのに大音量」がウリの品物のせいか、
自分が望む小音量にはなかなかならない。
最小の音量でも、枕元用にはだいぶ音が大きいのだ。
アナログのように細かいレベル調整ができるものでもない。
色々試行錯誤して、鳴らしうる最小の音量にし、
さらにスピーカーを裏返しにすれば、
どうにか寝る前の枕元でもうるさくない小音量にできそうだ。

それにしても、電源をオンにする時や、
Bluetoothが繋がるとき、切れるときに、
三角波らしき音で一々、
「ファファっ!」「ラレドっ!」
といった音楽的な操作音が轟くのはどうしたらやめられるのか。
取説を調べてみたら、この操作音はオフにもできないし、
スピーカーの設定音量と無関係に同じ音量で必ず鳴る仕様らしい。
消せないのだ。

疲れ果ててベッドに向い、寝る直前に電源を入れると、
瞬時にBluetoothが繋がり、
「レミラっ!」とかいう爆音が轟くのを聴かなければならなくなった。

可能な限り小音量に設定する、
あきらめて大音量の操作音に慣れる、
不自然に強調された重低音に慣れる、
これに数ヶ月かかった。

が、まあこれだけお金と手間をかけたんだ、
これ以上はもうどうしようもなかろう。
たかが枕元でなんとなく音楽が鳴っていたい、というだけのために、
これ以上時間と手間とお金を消耗したくない。

ところでこのバッテリーはどういう仕組みなのだろう?
まあいい。枕元に置きっぱなしなわけだから、
バッテリーを長持ちさせる工夫など必要ない。
バッテリーがリチウムだろうと鉛だろうとニッケルだろうと、
バッテリーがダメになったってACアダプターで動けばいいだけだし、
バッテリーを長持ちさせるために寝る前に思考を巡らすなど、
本末転倒も甚だしい。
深く考えないためにこういうものを買ったのだ。
ACアダプターは繋ぎっぱなし。バッテリーについて考えない事にしよう。

1年経ったら、そのスピーカー、音が出なくなった。
ACアダプターをつながないと、一切動作しない。
ACアダプターをつなぐと、アラート音が轟き、バッテリーマークのLEDが赤く光って、
あとは一切動作しない。音も出ない。
つまり、このスピーカー、内蔵バッテリーに寿命が来ると、
ACから給電されても動作しないらしいのだ。

一応サポートサイトを見てみて、
ACアダプターを使っても音が出ないときのリセット法なども試してみたが、
症状は変わらない。

いくらなんでも使えないから捨てる値段とは思えない。
普段は信頼しているメーカーでもある。
一応、バッテリー交換依頼のメールを出しておいたが、
数日経っても返事は来ない。
サイトの作りからして、見るからにサポートする気が無いのがわかる。
プロの現場でどんなに愛されているメーカーであっても、
コンシューマー相手だと一気に対応が悪くなるのは、
しばしば経験するところである。

腹立ちまぎれに、別のメーカーのBluetoothスピーカーを購入した。
値段は¥3999。ネット通販で、今日届いた。
箱を開けてみたら‥‥

―――(長いので次に続きます)

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以上の文章には、具体的な製品名、型番、サイト名を書きませんでした。
次に書く記事にも書かないつもりです。
適宜脳内で補完してお読みいただければ幸いですが、
予測はあくまで自己責任でお願いします。
具体的には「舟沢があのメーカーを批判した」とか、
尾ひれをつけて拡散するようなことは避けてくださいませ。

多分後編は1~2週間で書きます。

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